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NSSB小説

521.【第五部 拝啓全国の剛様】⑦彼のくだらない夢[終]

521.【第五部 拝啓全国の剛様】⑦彼のくだらない夢[終]

7.彼のくだらない夢


木下剛(40歳)。今回最後のハッピーボムレターが送られる剛であり、今回唯一の爆弾の被害者となる男だ。彼は都内で暮らしているが堅気の仕事はしていない。彼の日常は、麻雀に賭博やパチンコを繰り返す毎日だ。生活費は、人を脅し、恐怖によって金を巻き上げることで賄っている。彼の脅しのネタは、暴力団やヤクザによって買われており、都内の闇取引の世界で有名な男だ。
別に彼の弁護を図る訳では無いが、彼の幼少期はとても全うなものでは無かった。彼の家庭は父親と2人暮らしだった。母親は彼が小学校の頃に、彼の妹を連れて出て行った。父親は何の仕事をしていたか記録に残っていないので分からないが、彼の死後、周囲の聞き込みから、闇金融会社の社長だったとのこと。ろくに家に帰らない父親との2人暮らしをする小学生の木下の家での生活は不明だ。しかし、木下の学校での生活は、その日常の不満を吐き出すように荒れていた事が、後日犯人の証言によって分かった。彼は幼少から体が大きかったので、同級生をいじめることは日常茶飯事で、先生にも刃を向け続けていた。今回の犯行は、まさにそれから約30年の時を経て行われてしまったのだ。なぜもう少し早く犯人の意図に気づくことができなかったのかと、今でも後悔は尽きない。

ここは都内駅前の商店街の一角。レストランや、ファーストフード店が立ち並ぶこの街は、活気に溢れていた。そんな街に溶け込む『K—good歯科』といういかにも子供向けの歯医者さんの前に、3人は集められた。この3人を呼んだのは僕と田中刑事とそして春山さんだ。その3人とは、なんとハッピーボムレターにより自宅を燃やされてしまった進藤さん、豊本さん、そして連れてきた上野さんだ。少し遅れてきた進藤に対して、少々怒り気味の春山の話から今回の犯罪の最終章が始まった。
「では、早速今回の事件のあらましをお伝えしようと思いますが、少し時間がありません。犯人がすでに最後の犯行を起こしている可能性が高い。最後に3人にいくつか質問があります。
あなた達はお互いに知り合いではありませんね?」
春山の質問を向けられてた3人は、お互いの顔を見合わせた。
「違いますよ。年齢も違うし、第一、この芸人さんと僕たちが知り合いなわけないじゃないですか。というか、この芸人さん死んだのではなかったのですか?」
進藤さんの話に、上野さんが端を切って話だそうとすると、春山さんが3人の前に手の平を出して、2人の私語を止めた。そして春山さんが豊本さんをチラッと見ると、豊本さんも首を横に振った。
「よろしい。
では、小学校の時に好きだった先生はいますか?
もしくは今でもたまに会う先生とかは?」
「え?」
前回の上野さんと皆んなが同じような反応をした。
「なんだその質問は?関係あるのか?」
田中刑事がそろそろ待ちきれないと言わんばかりの口調で春山にぶつけた。その間、上野さん以外が顔を中に向けたり、うつむいたり等して考えていた。
「ケイ先生・・・じゃないかな」
豊本がポツリとこぼした。その言葉に最も早く反応した2人は、何かを思い出したように言い出した。
「ケイ先生!そうだ、ケイ先生がいた!!」
「え、ああそうだ!ケイ先生だ!」
この言葉に僕と田中は驚いた。この事件になかなか顔を出さなかった共通点がここに来て見えてきた。さすがに小学校の先生が共通点とは、警察も分からなかった。
「どうやら、全ての事件が繋がったようですね。あなた達のおっしゃるケイ先生、本名橋本敬は、今回の事件の犯人です。そしてこの歯医者さんが彼の自宅です」
−—————
「なんだって!?」
一同は驚いて声が出なかったが、田中刑事が一番に大きな声を上げた。いきなり犯人にたどり着いてしまったことに、我々は驚いたとともに、その医者の事務所をみた。2階建ての取り立てて普通の歯医者さんと変わらなかったが、営業している様子の無い、言ってしまえば「さびれた歯医者さん」にさえ見えた。彼の生徒3人は驚きで声も出ず、物思いに耽っていたが僕と田中刑事は気がつくと足が動いていた。そしてシャッターのしまった歯医者さんに勢いよくノックをした。
ガンガンガン!ガン!
「すいませーん!橋本さーん!警察ですー!」
その呼びかけに、シャッターは物音を立てなかった。その様子を知っていたかのように、春山の電話はけたたましく鳴った。
「突入—!!!」
春山さんの掛け声と共に、どこからともなく警察の暗躍部隊のSITが現れた。何も知らされてない僕と田中刑事は驚いて怯んでいるとあっという間にシャッターをこじ開けて、中に入っていった。どうやら春山さんはこの事態を読んでいたらしく、あらかじめ上層部と掛け合ってSITを待機させていたようだ。
僕達6人が立ち尽くす中、5分もすると中から報告が聞こえてきた。
「マルヒ発見できません!」
SITの一人が慌てたように春山さんに告げると、すぐ携帯でまた掛け直した。
「宇多飼君、裏口はどうかね?・・・なるほど、では車を」
それを聞き、さらに電話を掛け直した。
「山ノ内君、どうかね?分かったかね?
すぐさま向かおう!場所は・・・了解しました!」
突然商店街に大きなバンが飛び出してきた。運転しているのは宇多飼さんのようだった。
「さあ、君たちも乗りたまえ。このままでは間に合わない!」
春山さんが大きく声を荒げたのは初めてのことだった。我々は約15分程かかり目的地に着いた。

すでに火の手は上がっていた。その犯行は既に行われていて、燃えたアパートの周囲には人だかりが出始めていた。僕達は勢いよく車から降りるとその人だかりに向かった。車で移動していた間、春山さんの今回の謎解きは行われていた。その推理に最も若く、最も心を打たれたと見える上野さんは、車から飛び出して、なんとそのまま燃えたアパートに突っ込んで行った。誰も彼を制止できず、そして消防隊が車で中にも入れない僕達は立ち尽くして、約5分が経った。すると、燃えたアパートから大きな音がしたと思ったら、上野さんが誰かを背中に背負って、飛び出してきた。その身元をわかるであろう2人が飛びつくと大きな声で呼びかけた。
「ケイ先生!!ケイ先生!!!」
もう70近くにもなっていると思われる初老の男性は、辛うじて息をしている様で薄く目を覚ました。生徒の顔を見たのか、周囲の状況を見たのかは分からないが、少し笑みをこぼしたようにも見えた。とても凶悪な犯罪者には見えなかった。ここからは3日後に意識を取り戻した、警察での橋本の証言による事件の全容をお伝えしようと思う。

橋本敬は、優秀な小学校の先生だった。大学は医学部を出て、歯科医としての資格を取ったにもかかわらず、その後、すぐに教員免許を取り、小学校の先生になった異例の経歴を持っていた。彼は子供達が好きで、大学の頃に行った小学校の教育実習での体験が忘れられず、彼は小学校の先生になった。彼はどんな授業でも生徒と向き合い、それこそ私生活に食い込むほど、熱心に教育に取り組んだ。もしかすると熱心に取り組み過ぎたのかもしれない。大半の生徒には彼の教育が熱心に通じていて、事実、彼の生徒である、進藤、豊本、上野の3人も、卒業して何年が経った今でも敬意を表している。

しかしたった一人だけ、彼の教育に反発し、彼の人生を狂わせた男がいた。彼の名前は木下剛。小学校6年生とは思えない体格と、家庭環境からくる、その頑と曲げない悪態ぶりはどの先生も音をあげた。しかし橋本だけは違っていた。
彼はとにかく木下とぶつかり、何度も大きな事件となりそうにながらも、紙一重の教育を行っていた。そして時間が経つと木下はだんだん橋本に心を許すようになってきた。そして、夜は家に誰もいない彼は、橋本の家にも遊びに行ったりしていた。生徒との距離が近くなるというのは教育的に間違ってもいなかったはずだが、そこでの偶然と事実は、木下と橋本の両方の人生を狂わせてしまった。ある日、橋本は当時付き合っていた彼女と結婚を考えていた。それは誰が見ても正当なお付き合いでの恋愛結婚になるはずだった。橋本も強くそれを望んでいたし、彼女もまた、たとえ事実をかくしていたとしても、橋本との恋愛が実ることを望んでいた。
「お母さん」
木下のその一言で全ては崩れた。もちろん木下が悪いわけでは無かった。橋本の彼女は、木下の母親だったのだ。離婚した母親が信頼する先生と付き合っている。この状況を12歳の子供はどう受け止めれば良いのだろうか。次の日から木下は学校に来なくなった。橋本は、未婚の女性と思っていたことにショックした。それにより結婚の話は見送りになった。そしてその僅か3日後に橋本の彼女、つまり木下の母親は自殺した。離婚して引き取った妹はどうなったのかわからない。崩れたのは橋本も一緒だった。何が間違っていたのか、恨むべきは何なのか?全てを分からず、橋本は崩れた。当時の小学校では教職員再雇用センターに送られるまで、学校を休んだ。

それからの橋本は、ある一つの条件だけを守り、小学校の教職員して向き合いながら人生を費やした。彼は都内だけでなく、あらゆる地方を転々としながら働いた。茨城、長野、遠いところでは、北海道や沖縄もあったという。
できるだけ自分とは無関係の土地で、誰とも繋がらないように。生徒とも、誰とも深く関係を続けないように。橋本にとって、それは惨めな道だった。歳をとると尚更に思う。なぜ私はこんな風に逃げ回らなければいけないのか。
逃げることに疲れた橋本は教職員をやめ、持っている歯科医の資格を使い、自らの歯医者さんを立ち上げた。歯医者の仕事は嫌いでもなかったが、教職員の仕事がいつも忘れられず、今でも小学校の頃に覚えている全国各地の住所に毎年、年賀ハガキは送っている。そして歯医者としての仕事で、取り急ぎ、少しお金が必要になったある日。ふと立ち入った金融会社にその男はいた。
約30年ぶりの再会に笑顔は無かった。お互い片時も忘れなかったし、どんな感情を持っていいのかも分からなかった。
先に攻撃を仕掛けてきたのは、木下だった。高利貸し、歯医者の評判を落とすためのデマは尽きなかった。わずか3ヶ月で倒産に追い込まれた。
歳が70近くにもなると橋本は、ついに最後の壮大な復讐計画を立て始めた。昔から頭の良かった彼だ。全てに意味を持たせて、いや警察にヒントを与えて正々堂々勝負したと、自分勝手な理屈を述べていた。準備は半年にも渡った。

まず彼は今までの都内、そして地方の膨大なデータから「剛」の名前をピックアップした。そして、しっかり相手の名前を伝えていた。
ここからは春山さんの推理どおりだったのだが、拝啓は、「HI、K」のことだった。つまりKは今回の目標である木下のことだった。そして春山さんは拝啓の後には必ず必要な、とりわけ省略されやすい「敬具」に意味を見出した。敬具は「K-good」のことだと知ったのは、被害者の頭文字が、STUで並んでいたためだ。普通、STUときたら、次はVとくると思いがちだが、Vは「ヴ」が先に来るため、そんな苗字は日本語に存在しない。まあ警察だけは都合よく考えて「ブ」の苗字を探してしまっていたのだが。とにかくこれに気づいた春山さんは、STUがSTUDENTで「生徒」の事だと呼んだ。それから「K-good」に到達できた理由は、このSTU-DENTのDENTが歯医者のDENTAL OFICEと同じ意味だと気付いたからだ。そうそうない歯医者の名前だったので、すぐに橋本の名前が割れた。そこから春山さんは、橋本の過去から、Kの付く苗字の生徒を山ノ内に調べさせている間、宇多飼さんに橋本の家を見張らせているはずだった。

しかし、春山さんの上野さんを拉致したというデマ情報のせいで、木下への殺害計画を早めに実行したという。この場合通常の犯罪者であれば、次の手を打つために動けなくなるのだが、橋本はそれすらも先を読み、いち早く動いたのだろう。上野さんの家が放火されて、宇多飼さんの張り込み前に行動しているのだから、橋本の計画はかなり緻密なものだったということだろう。
それまでの事件の流れを車の中で伝えた3人は、涙を流しながら聞いていたという。理由はどうあれ、橋本は木下を殺す前に、自分達の生徒に幸せになってもらうために、保険の掛けられた家を狙い、生徒達に保険金をあげたのだという。各地にハガキをばら撒いたのは、その狙いがばれてしまうと、彼らに保険金が下りないだろうと危惧してのことだと彼は言った。彼は最後まで生徒の面倒を見続けて幸せになってもらうのが夢だと、涙ながらに語った。しかし結局は全てにおいて犯罪だ。そんな彼のくだらない夢なんかに付き合わされた周囲はいい迷惑だ。

僕は春山さんと電話をしていた。
「春山さんが海外の地下組織を調べるように教えてくれていたおかげで、どうにかハガキを全国に配っていた一味を捕まえましたよ。ハガキのプリントのインクが違ってた理由は、1度目が橋本で、2度目が橋本が雇った何も知らない海外の組織でしたね。どうやら金で雇われていたそうですね」
「そうでしたか」
春山さんは興味なさそうに短く答えた。そして僕はずっと気になっていた話を春山さんに聞いた。
「あの、捜査の途中で宇多飼さんが言った、『美味しい話』ってありましたよね?あの謎だけが解けないんですが、どういういみだったのですか?」

「ん?ああそれはね、彼の作るクリームパスタにあうパスタを調べてもらってたのだよ。最近彼のパスタがイマイチだというと機嫌を悪くしてね。それから彼が独自に調べると、随分安く、そして美味いパスタが見つかったというのだよ。
今も食べているのだが、実にうまいよ」

その横で宇多飼が犬のベスと満足そうに戯れていた。
「あ、そすか」
そういって僕は電話を切った。昼飯どきだったので、そのまま警視庁内の食堂へと足を運んだ。



☆☆☆完結☆☆☆
ありがとうございました!第五部無事完結ですね!
次回は第五部あとがきですw

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