NSSB小説
515!《拝啓全国の剛様》⑥S.T.U放火事件
6.S.T.U放火事件
ここはカーテンで密閉された部屋。
完全に世間から隔離された異空間の部屋の中では、ある人物がせかせかと忙しく歩き回っていた。彼を悩ませていたのは、唯一社会との連絡が取れる、自らのPCに移る一枚の記事。その記事は誰が見ても今の日本ではトップを飾れる話題だったし、誰が見ても興味を引くような内容だった。この記事にただ一人、泡を食った犯人としては、自らの「芸術作品」が堕落してしまったこと。完全犯罪という芸術品は、まるで大きな額縁が剥がれ落ち、ぐしゃぐしゃに踏みつけられたような駄作の絵画になってしまったようだ。
ここで次なる緊急の決断を強いられて、部屋の中をぐるぐる歩き回る人間こそ、今回のハッピー・ボム・レターの犯人である。その犯人を悩み苦しめている内容がこちらである。
【三軒目でついに!HBLがとうとう放火殺人か!!】
昨夜未明、芸人のウーエノこと上野剛さん28歳の家が放火されました。上野さんの家は閑静な住宅街のアパートで、目撃者によるとドンッという大きな音の後、煙を目撃。その後、火の手が上がり、今回の火災が確認されました。なお、住人の上野さんは、仕事からの帰りに突然火災の被害にあったということが、母親との携帯電話の通話中に切れたということで確認されています。放火されたアパートは全焼で上野さんが放火に巻き込まれた可能性があるということで警察は捜査を進めている。
「HBLは、ご存知ハッピー・ボム・レターの略称です。つまり『絶対に殺人はしない』という事が犯人の美学だというのであれば、これほど予定を狂ったことは無いはずだ。そういうわけであなたには協力してもらっています、
上野さん」
場所は変わって、ここはSHUNZANオフィスの地下の奥深く。エレベータでは表示されない地下1階と地下2階の間のフロアである。地下1階から隠れた階段があり、そこを下るとそのフロアはある。通称B室。
そのB室には3人の男がいた。春山と私、そして今最もメディアを騒がせている男である、上野剛さんだ。
「おい、一体なんのつもりなんだ。俺をどうしようというんだ。
よく聞くと警察だというじゃないか。警察が何で俺を拉致するんだよ。」
上野が怒るのは最もな事である。
事件を少し遡るとこういうことになる。
僕が警視庁に戻ると、忙しく捜査員が動き始めていた。何かリストのようなものを出している。
「こっちの上田はどうする?」
「違う、宇佐美がさきだ!」
大きな罵声のような声が飛び交う中、その中に一段とやかましい
それは上司の田中の声だった。
「その宇多飼は大丈夫や、探偵のとこのやつだからな。
あ、おい!榎本、どこいってたんや。
早くお前も『U』リストアップせえ!」
意味も分からないまま捜査員の塊に行くと、そこには蛍光ペンで引かれた名前そこに並んでいた。上田、上野、宇佐美、宇梶など、まさに、『U』の文字が頭文字に並ぶような名前ばかりだ。
疑問のまま田中のところへ行くと、田中は1枚の紙を持ち出した。
「これは、S.T.U事件なんや」
田中の声を半分で聞きながら、僕はその紙を見た。どうやら、これは春山から送られたFAX用紙のようだった。
「進藤はS、豊本はT、たった二つの共通点から繋ぎ出されるものはアルファベットの順番だ。この無秩序な事件に唯一の共通点だ。犯人がプリンターを変えたのも計算だとしても、どこか美学を持った犯人であれば、その一貫性は必ず存在する。
次は『U』のつく家だ。放火が始まれば、手筈通りこちらに連絡してほしい
春山」
この用紙を見て、警察は動き出した。Uの付く苗字と名前が剛。これだけである程度絞れてくる。そして、目をつけた「上野剛」。全てが春山の計算通りのことだった。
しかし、警察もまさか監禁までするとは思っておらず、今「上野の所在」に警察も困っていた。
そして時間を元に戻そう。ここはB室。
「さあ、上野さん。あなたはとにかく犯人のおかげで仕事が増えました。ここからはあなたがけじめをつけて、この下らない事件をあなたが集結させるのです。名付け親のあなたが事件の幕引きをする。何という美学でしょうか。」
春山はまるでミュージカルの主人公のようにすらすらとセリフを言いだした。
上野はどうやらこの事件と自分の関わりについて少しずつ理解してきたようだ。
「さあ、上野さん。僕の質問は一つですよ。
犯人を割り出すためにとても重要な質問です。いいですか?」
「わかったからはやくしてくれ。」
勿体振る春山に少し苛立ちぎみに上野は言った。
「小学生の頃に好きだった先生はいますか?」
「は?」
僕と上野の声がB室に響き、それからB室はすぐ平静を保った。
☆☆☆今日はここまで☆☆☆
STU事件!脈絡のない事件にみた唯一の共通点。
春山の読みは正しいのか、またこの質問はなんなのか。
次回ついに集結!来年もNSSB小説を是非お読みくださいませ!!