NSSB小説
354.給食費を盗んだのは誰だ?⑦悪夢の回路(終)

7. 悪夢の回路
俺の名前は野茂。探偵だ。
これまでのマンモス校教師監禁事件は、すごく意外な方向に転がり、最後には日本の教育界を揺るがすような大事件に発展した。
これは小学校で逃げ廻ったオレ達が、同級生の五十嵐に連れられて教室に入り、黒の集団に追い詰められる所から最終章を始めようと思う。
「さ、みんな。大人しく捕まるんだよ。」
不気味な五十嵐の笑顔と共に、黒い集団が勢い良く教室に入っていきた。
俺たちは警察に保護されるものと思っていたから、咄嗟の事態にパニックを起こした。猿の田中は逃げ回るし、学級委員長の伊良部は恐怖で動けないし、松井は泣きじゃくる。おれは第一に石井を守るために、黒の集団に飛びかかった。それでも大人の力には敵わず、オレは自羽交い締めにされた。
「皆んな、抵抗するな!彼らは、SIT。つまり警察だよ!
僕たちを護衛に来たんだ!」
五十嵐の声を聞き、オレは力を抜いた。すると羽交い締めにしていた警察が力を抜いた。他の3人も驚き、黒の集団を見た。
「警察だと?五十嵐お前は一体何者なんだ?」
「そうだね、全ての質問に答えよう。でも今からある場所に行かないといけないので、歩きながら答えるよ。」
「ある場所って?どこに行くの?」石井が聞き返した。
「校長室さ!」
オレたちは6階から1階にある校長室に向かった。五十嵐が先頭を歩き、5人と警察官達は一階へ歩き始めた。
「今回の事件は、表向きは教師の監禁事件だけど、でも本当は違う。
実は『裏金』が動いてるんだ。とある財団からの不正資金を貰っていて、学それを校長が受け取っているんだ。それが約10年間、校長が変わりながらも裏金を受け取っていた。でもそれを立証する証拠がなく、誰も手を出せない。学校側の隠蔽し続けているんだ。」
いきなり小学6年生には難しい内容で、誰も返す言葉が無かったが、構わず五十嵐は続けた。
「今回の事件は7年前に遡る。
この学校の生徒の、当時6年生の中島という少年はいじめられていた。生まれつき体の小さな彼は、大人しく、口数が少なかった。いじめっ子グループのリーダーは黒田。当時から大きなグループを作っていて、周りの生徒から恐れられていたんだ。
特に中島君はいじめられたが、彼の母親は病気で入院していたし、父親は家族のために毎日遅くまで働いていたから、両親にいじめの事実を伝えることができなかった。」
「かわいそう。」松井がうつむいて言った。
「でも彼は勇気を出してこの事実を、担任の先生に報告した。当時から、先生と生徒だけの交換日記があって、その中にいじめの事実といじめグループの犯人の名前も書いた。
当然担任は然るべく処置を取ろうと、校長先生と相談した。
すると校長はその担任に対して、処置のストップをかけた。つまり何の対処も行うなということだった。」
「どういうことだい?中島君がいじめられているのに、見て見ないフリをしろといったのかい?」
伊良部が口を挟んだ。
「そう、当時犯行グループのリーダーの黒田の親が、校長に裏金を回している財団の会長でね。校長は担任には、黒田少年に言及しないようにしたんだ。
その間もいじめはずっと続いていて、どんどんエスカレートしていった。
その度に担任との交換日記には、沢山のいじめに関する事実が書き込まれた。
でも担任はそれを無視し続けた。」
そして、中島君は、学校から飛び降り自殺をした。
放課後の教室から、誰も見てないうちに。」
そこにいる誰もが悲しみで何も口にできなかった。
五十嵐はそこで足を止めた。拳を握り、自らの膝を強く叩いた。
「当時の担任の名前は、長谷部誠治。今の校長だ!!」
「え!!!」
4人は、この事実に心底驚いた。
長谷部校長といえば、毎朝校門で挨拶をしたり、校庭の草花に水を掛けてる。いつもニコニコしていて、生徒にも人気だ。
「信じられない。あの校長が。」伊良部が失望した。
一息ついて、五十嵐がまた歩き出した。
「そう、その校長の悪事を暴いていくつもりで、僕は色々と動いていたんだ。」
「待て、だからお前は何者なんだよ。何でそんなに知ってるんだよ。」
いよいよ校長室の手前の職員室に入ったオレは、五十嵐に言った。
「僕はね、探偵なんだ。まだ見習いだけどね。」
「何〜?探偵?それは、」
「探偵!?あの名探偵コナンみたいなやつ?」
オレが話す前に田中が好奇心旺盛に言った。
「そうだよ、ここにいる探偵の兄ちゃん達のね。」
校長室の扉を開けた時、中には一人の男性と数名の警察官が校長室の中の金庫を囲んでいた。
「宇多飼兄さん!見つかりましたか?」
開かれた金庫の前で資料らしきものを見ていたその男性は顔を上げた。
「五十嵐か、見つかったよ。長谷部の裏金の裏帳簿と、これまでの生徒との交換日記がな。これで長谷部を攻略できる。隠された真実を白日のもとに晒せるな。」
「やった!『白』は確保できましたか?」
「ああ、全員確保したよ。春山が今朝爆発を解体したから、様子を見て突入するだけだったからね。そしてさっき春山に電話したら、中島も逮捕したそうだ。すべて事件は解決したよ。」
「よっしゃー!!」
俺たちはその会話の意味が分からなかった。
「五十嵐、意味がわからない、しっかりと教えてくれ。」
「さっきの話の続きだね。
中島くんの死後、彼のお父さんは自殺の原因を突き止めようと何度も何度も学校側に情報を求めていた。弁護士にも行ったが、証拠不十分で学校側を告訴することができなかった。
諦めた彼は、苦い思い出を忘れるために、毎日の仕事に没頭するようになった。
7年の月日が流れ、3ヶ月前のある日。
清掃作業員として、中島さんのお父さんはこの学校に派遣された。そこで、現校長の長谷部を見たが、長谷部は中島さんの顔を覚えてなかったそうだよ。これが中島のお父さんの憎しみに、再び火をつけたんだ。」
宇多飼は話を割って入った。
「そんな中、悪夢の回路は回り出す。中島は一人で事件を起こすことは出来ないと思い、最近動きが活発になっている白い奴らを金で雇い、手を組むこと決めた。中島の依頼内容は、教師を人質にとり、校長の長谷部に『7年前のいじめの事実』をマスコミに告発させることだった。
しかし彼は白い奴らと計画を進める中で、衝撃的な事実を知ってしまうんだ。なんと白い奴らのリーダーが、昔息子をいじめていたグループのリーダーの黒田でね。彼もまた7年前の事件を覚えてなかった。
全ての因果を感じた黒田は、学校と白い奴らの両方を消し去ろうとした。
爆弾でね。」
「爆弾!!」猿が大きな声を出す。
「中島は白い奴らには6時に爆発するといったが、実際は爆弾のタイマーは5時半に設定されていた。爆発すれば、体育館内にいる全ての人間は吹き飛んでいただろうね。
でもそれは未然に防ぐことができたよ。うちの春山と、五十嵐の白い奴らへの潜入捜査のおかげでね。五十嵐のクラスは、五十嵐に学校外まで連れていって貰おうと思ったが、どうやら頑固なキャラクターばかりのようで連れ出せなかったらしいね。まあいいさ。よし、ここから出るぞ。」
校長室から出たオレ達は、この事件に対して複雑な思いを馳せていた。
あの校長がそんな悪魔だったなんて。まさか「裏金」なんて・・・。
金?
「あ、給食費!!」
思わず声に出したオレは、校庭に向かって歩く五十嵐を引き止めた
「さあ、いよいよ最後の謎解きだね。」五十嵐が怖いほどの笑顔で答えた。
「オレが給食費の犯人と絞ったのは、3人。
まずは担任の石井。給食費を家庭から回収して、そのまま着服している可能性がある。
2人目は2時間目の授業を担当した数学の先生だ。授業中教室の教卓は鍵をかけてない。もし教卓の中の袋をたまたま見つけてしまった場合、知らないフリをして教卓からお金を取ることが出来る。
そして3人目。こいつが犯人だ。」
「何だと?犯人が分かっているのか!!」オレは驚き、五十嵐にすがりついた。
五十嵐は満面の笑みで言った。
「犯人は、・・・・・オレだ!!!」
「え?」
驚きの余り、少し固まっていたら、五十嵐が上着の内ポケットから給食費の封筒を出した。何がなんだか分からなかったが、松井に尋問され、疑われていた気持ちと、目の前の探偵に弄ばれた気持ちで、怒りの沸点は一気に上昇した。
抑えきれないオレは五十嵐の胸ぐらを掴んだ。
「貴様〜・・・!!」
殴ろうとしたその瞬間、五十嵐の声の方が一言早かった。
「置き忘れだよ!!」
「え??」
殴り止まったオレに五十嵐が説明した。
「鍵の入ってない給食袋、少ない容疑者、そして担任の松井のズボラな性格を考えると、教卓の中に置き忘れた可能性があると思って、教卓を見たら封筒があったよ。
多分整頓されていない教卓の中で給食費の封筒が飛び出てしまって、それに気が付かなかったんだろうね。」
「何だとー!!」
すると人質から解放された松井が校庭に現れた。
思いっきり飛び蹴りをした。
そして今、中学一年生のオレは探偵だ。
いや、探偵の見習いだ。
(完)
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NSSB小説第二幕
終了致しました!!!
これまで読んで頂いた皆さんありがとうございます!!!
来週は編集後書きとなっています!
今回の小説の背景など、詳しく語っていきます!!