NSSBのブログ

NSSBの日々の活動や、 その時の気持ちを投稿しています。 小さなブランドですが、 今後県外や海外に大きく飛躍していく 成長日記となればと思っています。

NSSB小説

279.宇多飼さん⑥

279.宇多飼さん⑥
6. 真犯人



黒田は今回の殺人事件の舞台であるコンビニの、
店長の金田をベンチに座らせた。
黒田の推理は始まった。



「推理の糸口は、児童センターのあずさいでの大谷と、あんたの関係だ


今回の被害者である大谷健二の名前がアルバムに載っていたよ。

そして大葉昌美さん。あんたの名前もな。

大葉は旧姓。全ての発端は大葉金融社長一家惨殺事件だな。」



金田はゆっくりと視線をあげ、黒田を見据えた。



「当時の大葉金融は、裏では強引な取立で債務者を追い詰め、酷い時はその一家を心中に追い込むほどだった。

特にあんたの父親は裏の世界で顔が利き、数々の暴力団と手を組んでいた。

その中の暴力団の一組員であった『谷中健一』は小さく質屋を営んでいた。

『谷中質店』は、経営は苦しかったが、大葉金融からの融資で何とか生計を立てていた。


谷中の家族は、
健一の妻の陽子と、子供の健二、鑑定士の叔父と一緒にこじんまりと平和に暮らしていた。


しかし恐怖の夜は突然起こった。


深夜1時35分。

『谷中質屋』に強盗が入った。
鑑定中の金品や売り出し前の商品が強奪され、大きく被害が出た。


店主の谷中健一は、強盗団との揉み合いで頭を強く打ち意識不明の重体となった。


強盗団は捕まらず事件は闇の中に消えた。


事件以来、妻は家族のために身を粉にして働いた。

鑑定士の叔父は、質屋の看板を下ろした店で何をするでもなく、酒ばかり飲んでいた。


妻の看病も実らず、健一は頭の傷が致命傷で、そのまま意識が戻らず、息を引き取った。



それから健一の妻と息子の健二は、アルコール依存症となった高圧的な叔父のせいで家から追い出された。


幸い健一の遺産金が陽子の手に入り、小さなアパートで健二と生活することができた。


陽子は必死に働いた。

しかし昼はパート、夜はクラブで働き、陽子は忙しさとストレスから酒に溺れるようになった。


10歳の健二にヒステリックに暴力を行ったと思えば、我に帰り健二を抱きしめ「ごめんね、ごめんね」と謝った。もう精神的に限界の生活を送っていた。


そんな時勤めていたクラブで、暴力団のある男と知り合った陽子は、あの夜の真実を知ってしまった。

『犯人は大葉。大葉は質屋を襲わせた』



その日からの陽子は、大葉に対する殺意だけで生きてきた。
自分達の家族を崩壊しておいて、平和に暮らす大葉の家族を憎んだ。

陽子は働かず、大葉を徹底的に監視し、殺害の機会を伺っていた。


大葉の家族は、社長とその妻、そして幼い娘の昌美だった。


大葉の一家団欒の幸せな様子を見るたび、さらに復讐の炎を燃え上がらせた。


そして質屋が襲われた丁度1年後の同じ時間の夜中1時35分、陽子の作戦は決行された。


大葉金融に音もなく押し入ると寝込んでいる大葉社長の首を横一文字に切った。


続いて隣で寝ている大葉夫人の首を切り殺害。殺意は止められず、血眼になって大葉の娘の昌美を探した。


その日は、たまたま昌美は友達の家に泊まっていたため、見つからなかった。
その場で陽子も首を切って自殺した。



翌朝起きた健二の隣に、母の姿は無かった。母は夜も働いているので、こんな事はよくある事だった。


まさか昨夜母が起こした事件など知る由もなく、健二は待った。10歳の健二は忍耐強く、明るい子だった。待ち疲れて眠った健二を起こしたのは、母ではなく警察だった。



それから間もなく警察に保護された健二は、ある山奥の児童擁護施設に入った。

『児童センター あずさい』だ。


そして苗字も谷中から大谷に変えた。

その後3日が経ち、隣の部屋にも新しい入居者が入った。


それが『大葉昌美』だった。


これがあんた達2人の出会いだ。

運命のイタズラなんかでは無い。
当時の警察の怠慢だ。浅はかな考えで幼い2人を同じ施設に入れてしまった。間違いなく配慮が足りなかった。」





公園の陰に隠れていた私は、息を飲んで見守っていた。
店長金田と被害者大谷の衝撃の過去に声をあげそうになった。
それから少しの沈黙の後、金田の鼻で笑う声が聞こえた



「警部さん。
すべて貴方の言う通り。私と健二は幼い頃、同じ児童センターで出会った。


お互い両親がいなくて、すぐ仲良くなった。健二は私の3つ上だったから、お兄ちゃんみたいな存在で本当に好きだった。

だから何?私が犯人だっていうの?幼い頃の両親の復讐?

ふざけないでよ!証拠があるの!?」



激昂する金田の口調とは対照的に、黒田の静かな声で語り出した。

「今回のコンビニ強盗殺人事件は、人見知りの女性の犯行で、例の首切り通り魔の事件とは違うということは、メールで伝えた通りだ。」



どうやら黒田は、春山の推理した4つの謎について、すでに金田に伝えたらしい。

黒田はさらに厳しい目で金田を睨んだ。

「今回の犯行は、犯人と被害者の共犯での強盗に見せかけて、本当は大谷を殺害する犯行だ。


おそらく偶然どこかで出会った時に復讐心が芽生えたのだろう。
そこであんたは、共に強盗するよう嘘の話を持ちかけた。


今回あなたに目をつけたのは、監視カメラが故障していなかった所と、
犯行の手際が良すぎるところだ。


たまたまカメラが故障してたのも怪しいし、自分のコンビニのレジならお金を取るのは造作もないだろう。


そして、とある『協力者』の調べにより、大谷とあんたの接点がわかり、疑惑は確信に変わった。



あんたが今回の殺人現場を自分のコンビニにしたのも、都合がいいからだ。

自分のコンビニなら、例えあんたの髪の毛が落ちていても不思議は無い。

そして、殺害時間も調整できる。

その時間とは、あんたの両親が殺された時間。30年前の同じ時間の夜中1時35分に殺害できるんだ!


さらに殺害方法だ。
あんたは例の首切り通り魔を真似たのでは無い。30年前の殺害された両親と同じように首を切ったんだよ!」



黒田のこんなに声を荒げている姿は恐ろしかった。というより鬼気迫るほど取り乱していた。

その様子に間違いなく怯えている金田も最後の抵抗に出ていた。



「で、でもそれは、証拠じゃないでしょう?本当に私が殺したという物的証拠はあるの?」

ベンチから立ち、震えた声で反論した。強がりにしか見えないが、昨日私にコンビニの仕事を教えてくれた優しい店長とは、まるで別人だ。凶暴な犯罪者のような形相だ。


しかし、もう自白寸前の被疑者も、ここまで追い詰められるとかわいそうに見えてくる。しかも相手は大柄の180cmを超える刑事の黒田。160cmの金田に、一言小突けば勝負は決まるだろう。


黒田はコートの右ポケットから何かを取り出した。証拠品などを入れる、小さなビニールの袋を取り出した。



「髪の毛だよ。事件後にあんたが美容室で切った髪の毛だ。


犯行当時は、まだ髪が長かったあんたは、大谷の返り血が自らの髪の毛についた事に気づいた。


あんたは血液検査をされるとまずいと感じ、美容室の予約を取った。
その美容室で切られた、あんたの髪についていたよ。大谷の血がね。


用心深いあんただ。家で髪の毛を切った事に疑われる事が怖くて、美容室で切ったんだな。これも『協力者』の調べですぐさま美容室を調査したら、まだ捨てられずに残っていたよ。」


協力者というのは、恐らく春山のことだろう。『協力者』と言う度、黒田の顔は嫌悪で歪むのが気になったが、決定的な証拠を提示した黒田に金田は膝から崩れ落ちた。



「健二に再開したのは、1ヶ月前よ。

児童センターから健二が上京した3年後、私も高校を卒業する頃には上京を決めていたわ。健二が好きで、健二の跡を追いたかった。


幼い頃の私には、健二が全てだった。小学1年生の頃から両親のいない健二はもう親であり、兄妹であり、恋人であり、愛を感じる人そのものだったから。



上京する前に最後に自分の家を見ていこうと思って故郷の町に戻ってみたわ。勿論大葉金融は無かった。

ただ代わりに気になる名前のお店を見つけたの。そこには『谷中質店』と書かれていたわ。



私の両親を殺した女の事情は知っていたから、まさかと思って中に入ってみた。


そこには、以前鑑定士をしていた谷中の叔父が店を開いていたのよ。


谷中の叔父は私には気づかず、いろんな事を話してくれたわ。谷中健一の事、陽子の事、そして一人息子の名前が『健二』だということをね。



それから『あずさい』で調べまくって健二が苗字を変えたことを知ったわ。


あの優しくて強い健二の母親が最も憎むべき相手だったとは。不安定な少女の気持ちが分かるかしら?
『愛』と『憎しみ』を一変に手に入れた気持ちだった。



それから上京して「大谷健二」を探したけど、全く見つからなかった。

それもそのはず、彼は暴力団として組員に潜伏し、身元は明るみに出てなかったから。

その間に私は結婚。憎しみも薄れ、幸せに暮らしていたわ。



偶然、健二に合わなければね。」


彼女は一度話を切った後、大きく深呼吸をした。

「でももういい。刑事さんの察しの通りよ。

健二と会って、その後憎しみがぶり返してね、もう殺すしか無いと思ったの。

彼はお金が無いという私の嘘に手を貸してくれると言ったわ。強盗の協力をしてくれると言った。相変わらず優しくて、泣けてきたわ。でも抑えきれなかった。普通の人には理解できないでしょうね。
健二を殺す事によって、愛も憎しみも消し去りたかった。

私も健二の母親と同じね。」



完全に事件が決着した瞬間だった。
ホッとして、その公園を去ろうとした時に、特異な現場に遭遇してしまった。


そこにはあり得ない男の素顔が晒された。闇夜に照らす公園の光。
そこに映ったの黒田の恐ろしいほどの笑顔だった。
目を見開き、口を大きく開いた。

途端に黒田の左ポケットから大きなサバイバルナイフが出てきた。



この瞬間、意味が分からなかったが、脳をフル回転させ金田に危機が迫っていると直感的に体が動いた。



「店長ー!!」



私の声に驚いた店長が振り返ると、そこにはさっきまでの黒田とは別人の鬼のような大男のナイフが店長に迫っていた。



間一髪。
店長は交わした。その代わり私の右腕に大きな切り傷がスパッと入った。
279.宇多飼さん⑥


しかし誰よりも驚いたのは黒田の方だったのかもしれない。誰もいないと思っていた場所に突如現れた私に。


「宇多飼ー!!?貴様ァどうしてここにぃ!!!」



見たこともない黒田の顔は、もはや刑事の顔ではない。間違いなく正義とは反対の邪悪に満ちた犯罪者の顔だ。



パチ、パチ、パチ、パチ・・・

すると私の背後から拍手の音がした。



驚く私と黒田が振り返ると、暗い茂みから長身の春山が笑顔で登場した。



「いや、素晴らしい。宇多飼君。

よく、黒田警部を尾行してくれました。
おかげで現行犯で、黒田警部を捕まえる事ができます。



君の今回の捜査における動きは、勲章以外の何物でもないな。ご苦労様。」



よく状況が飲み込めない私だったが、黒田の顔を見ると全てが分かった。そう、こいつこそが・・・



「こんばんは。黒田警部。
そして首切り通り魔殺人事件の真犯人さん。」



春山のバックにパトカーのサイレンが聞こえてきて、大勢の警察官が公園外周を取り囲んだ。


今日はここまで。
次回が最終回!「正義とは何か」
黒田警部の過去!春山の推理が明らかに!

*この物語はフィクションです

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